文字絵のトリビア(3): ヘマムショのことは寺田無禅に聞け!
文字絵のなかでは、ヘマムショ入道は、へのへのもへじの次くらいに知られているのではないでしょうか。このブログでも、ヘマムショのことは何度か取り上げてきました。
その「ヘマムショ入道」がこの1月に、ユニクロからTシャツとして発売されました。「広辞苑」第6版の刊行を記念して、その挿絵のなかから10点を選んでTシャツが制作されたのです。
私がヘマムショ入道を知ったのは広辞苑の以前の版に出ていたのを見たからで、それは中学か高校のころだったと思います。そのときに、「文字絵はへのへのもへじだけじゃないんだ」と感心したことを覚えています。
文字絵というジャンルを初めて意識したのがそのときでした。その後、ジャンルとして成り立つなら新しいものも作れるのではないかと考え、それが文字絵研究所を立ち上げることにつながりました。
そういう意味で、ヘマムショ入道は文字絵研究所にとって忘れられない作品です。今日は、そのヘマムショ入道について重要な証言を残している寺田無禅についてとりあげます。
まず、その証言とは、
青蓮院殿にヘマムショ入道の四百年以前の物あり。その筆者不知惜哉。
寺田無禅話
というものです。これは黒川道祐の「遠碧軒記」という随筆の最後に載っています。青蓮院は由緒のある京都のお寺です。そこに四百年以上前のヘマムショ入道の絵があるが、作者が誰かわからないのは惜しいことだ、という意味に解釈されます。(現在、ヘマムショ入道の絵は所在不明なようです。)
「遠碧軒記」のこの記事は、江戸時代からいろいろなところに引用されているのですが、なぜか最後の「寺田無禅話」という肝心の記述に言及した文献がないようなのです。少なくとも私は今まで見たことがありません。
それで、これは黒川道祐が「ヘマムショ入道の四百年以前の物」を自分で見たことがあるということだと思っていたのですが、そうではなく、たぶん寺田無禅にそういう話を聞いたことがあるということなのだと思われます。
この「寺田無禅話」の記述の忘却、あるいは無視は江戸時代から始まっていて、例えば、喜多村信節の「嬉遊笑覧」、山崎美成の「三養雑記」では「遠碧軒記」のヘマムショ入道については言及されているのに、それが「寺田無禅話」であることは書かれていません。
ヘマムショ入道については「嬉遊笑覧」の記述が参照されることが多いために、今では「寺田無禅話」ということは忘れられているようです。「寺田無禅話」であることは、去年「遠碧軒記」を直接確認してみてわかったことです。資料は自分で原典に当たるのが一番だということを改めて感じました。
さて、その寺田無禅(1579あるいは1572〜1691)ですが、この人は近衛家家臣の侍で、書家です。京都国立博物館に消息(手紙)が収蔵されています。元禄4年(1691)に112歳か119歳で亡くなったとのことです。
この前の記事で近衛信尹のことを書きましたが、山科道安の「槐記」(巻一)によると、寺田無禅は近衛信尹の次の信尋の代から基熙の代まで仕えました。山科道安は基熙の子の家熙(予楽院)の侍医で、茶道や華道に関する家熙の行状や談話を「槐記」としてまとめました。
この「槐記」の何カ所かに寺田無禅が登場します。茶道や華道にも一家言あった人のようです(「槐記」巻六の金森宗和の八角の蓋の挿話など)。
このところ、小野お通、近衛信尹、寺田無禅とたどってきましたが、安土桃山から江戸にかけての時代に、何か新しい文字絵の資料の発見の手がかりがあるのではないかと思っています。
追記 : 近衛前久、信尹、家熙など、近衛家代々の書画は、今、東京国立博物館の陽明文庫創立70周年記念特別展「宮廷のみやび—近衞家1000年の名宝」で展示されています。
最後に、お知らせです。今日はモーツァルトの誕生日、そして1月31日はシューベルトの誕生日。31日にはシューベルトの新作のリアル文字絵をアップいたしますので、どうぞお楽しみに。
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